『クジラアタマの王様』が「コロナを予言した小説みたい」と言われるのを見て、気になった方も多いかもしれません。
でも実は、ここで大事なのは予言の当たり外れより、感染症が広がるときに社会がどう反応しやすいかが、物語としてとてもリアルに描かれている点です。
炎上、犯人探し、正しさの圧、デマや差別。
そういう“空気”がどう生まれてしまうのかを知っておくと、現実で巻き込まれそうになったときにも、少しだけ呼吸がしやすくなります。
この記事では、ネタバレを避けつつ、なぜ『クジラアタマの王様』が“予言っぽく”見えるのか、そして作品としてどこが面白いのかを、やさしく整理していきます。
読み終わるころには、「怖い話」ではなく、自分を守る視点が手に入る物語として見え方が変わるはずです。
この記事でわかること
- 『クジラアタマの王様』が“予言”と言われる理由
- 夢パート(サイレント漫画)の仕掛けと読みどころ
- 「人を動かすのは感情」というテーマの受け取り方
- 読む前に知っておくと安心な注意点(つらい人向けの読み方)
「予言」よりも近いのは“鋭い洞察”だった
結論から言うと、『クジラアタマの王様』は未来を当てにいった「予言の本」というより、社会が揺れるときに人がどう動くかを見抜いた“洞察の物語”です。
だからこそ、あとから現実を知った私たちが読むと、「え、これってコロナ禍のこと…?」とドキッとしてしまうんですね。
2019年刊行なのに重なるのはなぜ?
まず大事なのは、この作品が2019年7月に刊行されたことです。
つまり、世の中が今のような状況になる前に、“感染症が広がったときの空気”をかなりリアルに描いていた、ということになります。
ただし、ここで誤解しないでほしいのは、作者が「コロナを言い当てた」わけではない、という点です。
この小説が刺さるのは、ウイルスそのものよりも、それに反応する私たちの感情が丁寧に描かれているからだと思います。
作中で描かれるのは「新型ウイルス×社会の反応」
物語の中心にあるのは、製菓会社の広報として働く主人公が、クレームや炎上に振り回される現実パートです。
そこに後半、感染症の流行が重なって、社会全体の空気がピリついていきます。
そして怖いのは、病気そのものよりも、「誰かを悪者にしたくなる空気」が強くなることです。
“正しさ”が、いつの間にか“攻撃”に変わってしまう。
この感覚が、読んでいてとてもリアルなんですよね。
ここだけ先に結論(安心して読めるポイント)
「予言って聞くと、ちょっと怖い…」という人もいるかもしれません。
でもこの記事で扱うのは、予言の真偽を断定する話ではありません。
あくまで、作品を読む上でのヒントとして、なぜ“予言っぽく”見えるのかをやさしく整理します。
なので、安心して読み進めてくださいね。

“予言っぽい”と感じる共通点は3つ
「当たった・当たってない」を超えて、この作品が“それっぽく”見える理由は、共通点がわかりやすいからです。
ここでは、読者が「うわ、わかる…」となりやすいポイントを3つにまとめます。
| 共通点 | 作品で強く感じるところ | 読者が“予言”に見える理由 |
|---|---|---|
| 炎上・特定 | 感情が拡散し、誰かが標的になる | 現実でも同じ流れを見た記憶がある |
| 「正しさ」の圧 | 会社・近隣・メディアの空気が重なる | 空気に逆らえない息苦しさが似ている |
| デマ・差別・買い占め | 恐怖が行動をゆがめる | 恐怖のパターンは時代が変わっても同じ |
感染者探しと炎上が一気に進む
感染症が話題になると、なぜかセットで起きがちなのが「犯人探し」です。
本来は病気と向き合うはずなのに、いつの間にか「誰のせい?」になってしまう。
そしてSNS的な空気の中で、感情が強い言葉ほど広がっていきます。
この作品は、まさにその流れを、広報の仕事という視点から見せてくれます。
「企業が炎上する時の理不尽さ」と「感染症への恐怖」が合体すると、世界が一気に荒れるんですよね。
マスコミ・近隣・会社…「正しさ」が圧になる
もうひとつのリアルは、悪意のない人まで加担してしまうところです。
本人は正しいことをしているつもり。
だけど、その“正しさ”が集まると、逃げ場のない圧になります。
「こうするべき」「ちゃんとして」みたいな言葉が、いつの間にか刃物みたいに刺さる。
この小説は、そこをすごく冷静に描いている印象です。
差別・買い占め・デマが増幅する仕組み
恐怖が強くなると、人は「確かな情報」より「わかりやすい話」に飛びつきやすくなります。
その結果、デマが増えたり、誰かを遠ざけたり、必要以上に物を買い込んだり。
こういう現象は、感染症に限らず、災害や事件でも起きます。
つまり作品が“当たって見える”のは、未来を言い当てたからというより、人間の反応パターンを描いたから、と言えそうです。
夢パートが「セリフなし漫画」な理由がすごい
『クジラアタマの王様』の大きな特徴が、夢の世界が漫画(しかもサイレント)で描かれるところです。
最初は「え、急に漫画?」と戸惑うかもしれません。
でも読み進めるほど、この仕掛けがじわじわ効いてきます。
サイレントだからこそ感情が読者に移る
セリフがない分、読者は「いま何が起きてるの?」を自分の中で補います。
この補う作業って、実は“感情の移入”と相性がいいんですよね。
説明されないからこそ、怖さも、緊張も、体温が上がる感じも、自分の中から立ち上がってくる。
文章だけでは作れないテンポが、漫画パートで加速します。
現実と夢のリンクで“怖さ”が立体的になる
現実パートでは、言葉やニュース、クレームや世論で、世界が揺れます。
夢パートでは、もっと原始的で、象徴的な形で「戦い」が描かれます。
この2つがリンクすると、社会の不安が“頭”ではなく“体”でわかってしまう感じがします。
だから読後に、「現実を客観視できた気がする」のに、妙に心がざわつく。
この感覚が、伊坂作品らしい気持ちよさでもあります。
ハシビロコウ(大きな鳥)が象徴するもの
作品のカギとして語られがちな存在に、ハシビロコウのような“大きな鳥”が出てきます。
鳥って、静かに立っているだけで、見てる側が勝手に意味を考えちゃいませんか?(笑)
この「意味を考えたくなる感じ」も、サイレント漫画と相性がいいんです。
何かを断定しないのに、読者の中で象徴が育っていく。
だからこそ、読み終わったあとも、シーンがふっとよみがえります。

いちばん刺さるテーマ:「人を動かすのは感情」
この作品を語るとき、多くの人が引っかかるのが、「人を動かすのは理屈や論理より感情」という感覚です。
これ、きれいごとじゃなくて、かなり残酷に真実なんですよね。
でも同時に、救いにもなるテーマだと思います。
正義が暴走するときに起きること
感情が高まると、人は「正しい側」に立ちたくなります。
立った瞬間、反対側は「間違い」になりやすい。
そして「間違い」を直す、という名目で攻撃が始まる。
この流れが怖いのは、本人が悪人じゃない場合が多いことです。
むしろ善意っぽい顔で近づくから、止めづらい。
叩く側/叩かれる側、両方のリアル
叩く側には、「不安をどこかに置きたい」という心理があります。
叩かれる側には、「何をしても誤解される」という孤独があります。
広報という仕事は、ちょうどその間で板挟みになりやすい。
だから主人公のしんどさが、読者にもすごく伝わります。
読みながら「つら…」となるのに、なぜかページは進む。
そこがエンタメとしての強さだと思います。
読後にできる“小さな整え方”(距離の取り方)
この作品の良いところは、「じゃあどうすればいい?」を考える入口をくれるところです。
大きな正解は出なくても、できることはあります。
- SNSやニュースを見て気持ちが荒れたら、一度スマホを置く。
- 「正しい・間違い」の前に、自分が今怖がってないかを確認する。
- 誰かを断定したくなったら、いったん保留にする。
こういう“小さな整え方”ができるだけでも、作品は十分に役立つと思います。
読む前に知っておくと安心な注意点
ここからは、読者さんが「思ってたのと違った…」となりにくいように、先に注意点もまとめます。
ネタバレは避けつつ、雰囲気だけお伝えしますね。
陰謀論っぽく感じる展開は“作品の仕掛け”
終盤の展開を「陰謀論っぽい」と感じる人がいます。
ただ、ここは現実の主張というより、物語としての仕掛けとして受け取ると読みやすいです。
「世の中はこうだ!」と断定する話ではなく、“そう見えてしまう人間の心理”を含めて描いている、という感じ。
肩の力を抜いて、エンタメとして味わうのがおすすめです。
感染症描写がつらい人の読み方
感染症の描写があるので、体験がつらかった人は無理しなくて大丈夫です。
読むなら、気持ちが安定しているタイミングで、短い時間ずつでもOK。
また、夢パートが挟まることで空気が切り替わるので、そこで呼吸できる人もいます。
「しんどい=悪い本」ではなく、刺さり方の問題なので、自分に優しく読んでくださいね。
ネタバレなしで楽しむコツ
おすすめは、最初から「予言かどうか」を答え合わせしないことです。
それより、主人公がどんなふうに現実に立ち向かうのかを追うほうが、満足度が高いと思います。
伊坂作品の気持ちよさって、最後に「そう来たか!」があるところなので。
そこを素直に楽しむのがいちばんです。

あわせて読みたい:似た読後感の作品
『クジラアタマの王様』が刺さった人は、たぶん「社会の空気」や「人の感情の流れ」を描く話が好きだと思います。
ここでは、方向性が近いものを“ざっくり”紹介します。
(※感じ方は人それぞれなので、ピンときたものだけでOKです。)
伊坂幸太郎作品で近いテイスト
伊坂さんの作品には、日常にスッと非日常が混ざって、最後に回収していく気持ちよさがあります。
読後に「ちょっと元気が出る」系を探すなら、伊坂作品の中から選ぶのも安心です。
特に、群像劇やテンポの良さが好きな人は、別作品も相性がいいと思います。
群衆心理・炎上を描くエンタメ
「炎上」「空気の圧」を扱う作品は、読んでいて心が痛むこともあります。
でも同時に、自分が巻き込まれそうなときの予防線にもなります。
“物語で先に疑似体験しておく”って、意外と効くんですよね。
「客観視」したい人向けの軽めの読み物
重い分析書じゃなくても、エッセイや読みやすい解説で「人は感情で動く」を理解すると、楽になることがあります。
作品を読んだあとに、自分の感情を整理するための一冊を足すのもおすすめです。
まとめ
『クジラアタマの王様』が“予言”と話題になるのは、未来を言い当てたからというより、不安が広がったときの社会の動きを、驚くほどリアルに描いているからです。
感染症そのものよりも、感情が伝染していく怖さを描いた物語として読むと、納得感が増します。
この記事のポイントをまとめます。
- 『クジラアタマの王様』は「予言の本」よりも“洞察の物語”として読むとしっくりくる。
- 2019年刊行でも“今っぽく”見えるのは、人間の反応パターンが普遍的だから。
- “予言っぽさ”の正体は、炎上・特定・デマなどの社会の加速が描かれている点。
- 「正しさ」が集まると圧になる、という描写がリアル。
- 夢パートがセリフなし漫画で挟まる構成が、感情移入を強める。
- 象徴(鳥や戦い)が、読後もシーンとして残りやすい。
- 刺さるテーマは「人を動かすのは理屈より感情」という視点。
- 終盤は陰謀論っぽく感じる人もいるので、エンタメの仕掛けとして受け取ると安心。
- 感染症描写がつらい人は、無理せず読むタイミングを選んでOK。
- 読後は、SNSやニュースと距離を取るコツを持つと、作品の学びが生きる。
「予言かどうか」の答え合わせをするより、作品が描いた“感情の流れ”を見つめるほうが、きっと得るものが多いです。
不安な空気の中で、人はどうしても強い言葉や分かりやすい正義に引っ張られがちです。
でも物語の中で一歩引いて眺められると、現実でも同じように距離を取れる瞬間が増えていきます。
エンタメとして面白いのに、ちゃんと自分を守るヒントもくれる。
そんな一冊として、気になる方は手に取ってみてくださいね。

